ベルギー出身の作曲家セザール・フランクが、同郷のヴァイオリニストのイザイに結婚のお祝いとして献呈したヴァイオリンソナタ。私の大好きなヴァイオリンソナタのひとつです。今回はこの素晴らしいソナタの最初の四小節についてお話ししたいと思います。
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このソナタの第一楽章の冒頭四小節はピアノのソロ。実に幻想的な雰囲気で始まります。ここでピアニストに求められるのは、曲の雰囲気をつくること、そしてテンポを示すこと。
1.曲の雰囲気をつくる
この曲の冒頭はとても幻想的。静まり返った朝もやのなか、蓮の花の蕾がほんの少しだけフッとほどけるような・・・。
上の楽譜で赤く囲んだ和音と緑で囲んだ部分は別の声。音質を分けて弾きましょう。和音は柔らかく包み込むように。右手のラインは遠くまで通る音で。
冒頭の四小節は、少し細かく分けると二小節単位(二小節でひとまとまり)です。1-2小節と3-4小節は、和音の構成は同じですが、右手の音が異なりますね。3小節目の右手のシ-ファは、5度の跳躍を感じながら(シとファの距離を感じながら)弾きます。
Q. 最初の和音、弾くのが怖いのですが・・・
冒頭四小節の和音は、表記さているようにpp(ピアニッシモ)、しかも柔らかい音で弾きたいところですが、最初の最初に出す音がピアニッシモで柔らかい音、しかも和音。これはなかなか緊張を強いられるものですよね。
弱く柔らかい音を出す場合に失敗しない弾き方があります。まず大事なのは体の力を抜くこと。(「力を抜く」とは言うは易しで、実際にはなかなか分かりにくく難しいことだと思いますが、脱力についてはまた別の機会に。)そして、呼吸。
この曲は8分の9拍子、つまり大きくとると3拍子です。123223323の青文字の部分(つまり3拍目)で「柔らかい」息を吸ってから、今度は「柔らかい」息を吐きながら弾き始めます。息を吐いているときには体に力が入りませんから、難しい箇所を弾くときには息を吐くようにすると良いですよ。
指は立て過ぎないように。そして、体の力を抜いて(ただし指先はふにゃふにゃだと弾けません)腕全体がピアノにふわっと沈むようなイメージで腕を下ろします。この時、鍵盤を真下に押さえるよりも、少し斜めに押さえるような気持ちで弾くと柔らかい音が出しやすいです。例えば、腕全体を少し手前に引くか、逆に向こう側に押し込むか。余計な動きは極力避けます。
音量や音質は、指先ではなく腕全体の動きで調整します。腕を下ろす角度を少し変えてみたり、腕を動かす速度や腕にかける重みを加減してみたりして、自分が出したい音を探ってみてください。
ペダルを、音を出すほんの少し前に、本当にほんの少しだけ踏んでおくと、柔らかい音を出す助けになります。ただし、分からないくらい浅く踏んでくださいね。でないと、ぶわ~んという音が出てしまって、それこそ雰囲気が台無しになってしまいます。
2.テンポを示す
この曲の冒頭はピアノのソロです。つまり、ピアニストがテンポを設定しなければなりません。もちろん、テンポについては事前にヴァイオリニストと打ち合わせをしますが、実際に演奏するときにはピアニストが弾き始めたテンポで最後まで演奏することになります。また、テンポを明確に示さなければヴァイオリニストが安心して弾き始められませんから、責任重大ですね。
この冒頭部分、音数が非常に少ない。限られた音だけで明確なテンポを示すにはどうすればいいのでしょう。
ここでとても重要なのが、8分音符単位で数えるということです。1楽章は8分の9拍子で書かれているので、先ほど「大きくとると3拍子」と言いました。その通りなのですが、3拍子を感じながらもきちんと9拍子も感じる必要があります。
青く囲んだ右手部分 シ-レ(♪♩ )・・・の部分は、手の動きに任せて弾いてしまうとタターとリズムが詰まってしまうことがあります。そうすると、正しいテンポを示すことはできません。ここは9拍子を感じながら、四分休符(2拍分)とそれに続く♪♩ をリズム通りに弾かなければなりません。
人によっては3小節目の右手 シ-ファ を弾くときに少し時間を取ることがあります。その場合は必ず次の4小節目でリズム通りに演奏して、明確にテンポが伝わるようにします。
この冒頭四小節だけではなく、1楽章全体を通して、「大きく三拍子」を感じつつ、同時に八分音符をも感じながら演奏するようにしましょう。